これからもずっと長く働こうと思っていたサロン「キミツ」ですが、マダム朝子がご主人様とイタリアに移住することになり閉鎖されることになったのです……。
どうしましょう!
ほかのエステテシャンは優雅なマダムの自己表現系といいますか、べつにそれで生活しているわけではないので、
ここでのお給料はお小遣いのようなものでしょうけれど、わたくしにとっては生活費です!
どうしよう、来月の家賃!
なにしろ、アロマセラピストのスクールに一括で入学金と授業料を納めたばかりだったので貯金も底をついています。
もう、あわてて求人情報をリサーチしまくりです。
リンパマッサージのエステテシャンだけではなくアロマセラピストの求人も探してみたら、驚くほどたくさんあってびっくりしました!
それにしても、この不景気にエステテシャンってこんなに需要があるものなのですね!
しかも、もしもアロマセラピストの資格をめでたくゲットできましたら、もう怖いものナシという感じすらあります。
これはますますシッカリ勉強しなくては。
いろいろ探してみて、魅力的なサロンもありましたが、どうしても応募する気持ちになれないでいました。
いくらでも転職のチャンスはありそうだったのに。
わたくしはこのサロン「キミツ」でおばあちゃま方をキレイに元気にすることに生きがいすら感じていましたし、そのためにアロマセラピストの資格も取得しようとしていたのに。
結局、どこにも応募できないまま、とうとうマダム朝子とスタッフによる
週に1度の大きなミーティングの日がやってきました。
きっと、サロン閉鎖の正式発表があるのだろうな……と、思いながら、会議室のかわりになっているお屋敷のリビング(推定40畳)に足を運んでみると、見慣れない顔が一人。
マダム朝子をすごく若くした双子、という雰囲気のこの方はもしかしたら。
「娘の夕子です。一度は閉鎖しようと思っていたサロンですが、母から経営をバトンタッチすることになりました。
若輩者ですがどうぞよろしくお願いいたします」
どうやら、わたくしと同じ年齢らしい夕子さま。
チャッピーとお別れするのは寂しいなと思っていましたが、夕子さまもたいそうお可愛がりのペットと一緒にお引越ししてらっしゃいました。
今度はワンちゃんではなくロッキーという名前の猫ちゃんでした。
ロッキーはなかなか人に慣れないことで有名らしいのですが、なぜか初対面でわたくしの膝の上にのってきました。
チャッピーはワンワン激怒していましたが、動物にばかりモテ運を使ってしまうのもどうかという気持ちでいっぱいの、ひとみ・31歳・彼氏いない歴10年なのでした……。